吉野家の「カレー丼」を食べてみたくなって、取り急ぎ店に向かいました。
牛丼が姿を消して以来かなりご無沙汰ではあったものの
その堂々たるカウンター席は何一つ変わったふうでは無くて
「おう、よく来たな、まあ上がれ」
と言わんばかりの余裕の風情でおいらを受け入れてくれたのでありました。
しかし、今まさに過酷な時代の流れに必死で耐えている吉野家。
牛丼無き今のメニューにはその激闘の証ともいえる多彩な戦略が
八面六臂と展開されております。
豚丼に始まり、カレー丼、豚キムチ丼、イクラ鮭丼、マーボー丼、
そして鳥インフルの攻撃を受けた焼鳥丼に最新の角煮きのこ丼まで
形振り構わないといった風な怒涛のメニューが
今まで牛丼と言うだけでよかった客に大して、一閃の緊張感を与えてくれるほどでした。
このあくまで挑発的な吉野家のスタンスに屈することなく、眉ひとつ動かさずに
「カレー丼ください。」
と店内に響き渡るほどの声で注文する男らしいおいら。
そして、そのおいらを眼前に見据えて不適な笑みを浮かべるアルバイトの女子。
吉野家とおいらとの戦いの火蓋は今この瞬間に切られたのでした。
「カレー丼一丁!!」
その女子の掛け声が厨房に轟くや否や、音速の壁を越えるが如く早さで運ばれてくるカレー丼。
カレーライスでは無く敢えて「カレー丼」と命名されたことは、
吉野家秘伝のスパイスを使った独自の味に対する自負と、
今目の前で繰り広げられた「丼イリュージョン」の素晴らしさに起因するのでありましょう。
ここまで完璧なる攻撃に対してはこちらとしても全力で太刀打ちするのが礼儀であろうということで
意識の全てをカレー丼に集中させ、全身全霊を込めてカレー丼を口中に投じたのでした。
そして吉野家渾身の一撃の味をおいらの味覚中枢の全てで吟味した結果。
おいら「う〜ん。いまいちー。」
女子 「えへ、そうでしょ?」
いきなり言っちゃいました。この娘。
